独自の生存空間を模索する台湾 2

東京大学で学び博士号を取得した教授は、自ら「私は美濃部達吉学派の流れを組むりベラル派です」と紹介したそうです。


戯乱時期終結後の法制度を話し合うため法学者や弁護士などに呼びかけてつくった「法秩序再建委員会」の座長も務めています。


台湾の憲法は「三民主義に基づく五権憲法」だといわれます。


三民とは「民族、民権、民生」。


五権とは西洋的な3権分立制度に治権・考試(総統の政治行使権)、制権・監察(国民大会による監督権)が加わります。


しかしこれも李教授の言葉を借りると、あらゆるところから政治理念を借りてきた寄せ集めの憲法であり、「ドラゴン憲法」だということになります。


龍は、頭はヒツジ、口は虎、ワニの足に蛇の体というように、中国人好みの強そうなところだけを寄せ集めてつくった幻の動物。


中華民国憲法もそれと同じように、孫文が好きな思想制度をすべて持ち込み混ぜ合わせたものだといいます。


孫文はソ連からは最高ソビエト会議、中国共産党からは全国人民代表会議といった制度を借り、プロレタリア独裁の人民民主集中制といった理念も標榜しています。


そうした考え方からつくられたのが、中国の全国人民代表大会とまったく同じ性格をもつ国民大会でした。

独自の生存空間を模索する台湾

同じ公団住宅の階下に住み、この人の散歩姿を毎日目にしているはずの近所の人に聞いても、この人が国民大会代表、日本でいえば「国会議員」だということを誰も知らなかったそうです。


むしろそうした身分を隠すようにひっそりと暮らす、ごく普通の老人でした。


40年前の選挙について聞いても、「周囲から推されて出ただけだよ」と多くを語りたがらなかったそうです。


「大陸に帰ってみたいが無理だろう」と言うこの人の口からは、台湾の将来や大陸政策について内容のある話はついに聞けませんでした。


李総統は、90年5月、第8代総統として再選されてから、民主政治の確立のために欺乱時期の終結と憲法改革を最大の公約としてきました。


今回の国民大会の結論は、こうした公約に沿って臨時条款を廃止し、44年ぶりの選挙で全面改正される第2期国民大会代表に憲法改革の法的な権限を与えました。


今後の具体的な憲法改革の手順は、年末の選挙で選ばれる新たな国民代表によって進められることになっています。


台湾の憲法問題とは何なのか、台湾大学で比較憲法学を教える李教授を日本人が取材しています。


「老賊」議員の引退 2

議会審議を見限り、今後は大衆路線を歩むと宣言した民進党は、4月一7日「老賊反対」を叫ぶ10万人の街頭デモを繰り広げました。


地元台湾のテレビは国民大会の報道で、議員の顔のアップなどを見せることはめったにありません。


日本人記者たちが会場風景を取材し、東京にその映像を伝送したとき、東京のデスクは


「いやあ、画を見ただけで台湾の抱える現実がよくわかるよ」


・・・と電話の向こうでつぶやいたそうです。


カメラが大映しにしたのは、わけもなく議場をうろつく老人、議事とは関係のないことを大声でわめき散らすだけの老人、居眠りをしたり、新聞を読んだり、そんな老人たちの姿でした。


この集団をまとめ、議事を進行させるだけでも大変な労力が必要だろうと思われました。


ある記者は、この人たちに台湾の決定を委ねなければならない、それも台湾が抱えた現実老齢議員の実際の生活ぶりを知りたいと思い、一人の議員の家を訪ねました。


白氏、中国湖南省出身で84歳。


台北市内の公団住宅に病気の奥さんと2人で暮らしていました。


この人の日課は、朝昼晩と1日3回の近所の散歩だといいます。

「老賊」議員の引退

そればかりか正式に当選した代表だけでなく、この選挙に参加、立候補したという実績さえあれば、正式代表が死んだ後、次点候補者以下の者が次々繰り上げ当選して資格を持つという制度をつくりました。


これらすべてが臨時条款によって決められたものでした。


今回の裁乱時期終結と臨時条款の廃止は、91年4月に開かれたこの国民大会臨時大会の討議を経て正式に決まったものでした。


国民大会代表580人のうち圧倒的多数を占めるのは、こうした与党国民党の大陸出身議員、しかも平均年齢は75歳という老齢議員たちでした。


そうした議員たちが、自分たちの終身身分を定めてきた臨時条款を廃止し、自ら自分の幕引きをする。


・・・今回の国民大会はそういう性格のものでした。


しかし、大会は開幕から荒れ模様の審議となりました。


代表がわずか十数名の野党民進党(民主進歩党)は、開幕式で議員の宣誓を拒否し、その後も議場では激しい殴り合いや机を押し倒すなど派手な乱闘シーンを演じています。


数では対抗できない民進党は、開幕直後にすべての審議を拒否し大会をボイコットしてしまいました。


野党支持者たちは、大陸出身と老齢議員のことを「老賊(ラオツェイ)」と吐き捨てるように呼びます。


彼らの最大の不満は、40年も前に選出され台湾の民意を代表しない議員たちが、台湾の運命を決める憲法問題を審議する資格があるのか、という点でした。

王朝の終焉 3

動員鐡乱時期を規定してきた「中華民国憲法臨時条款」(1946年)とはそもそも何だったのでしょうか。


中華民国憲法の規定では政治体制は「内閣制」、総統は行政責任を負わない名目上の国家元首にしかすぎなかったのです。


国共内戦に敗れ台湾に逃れた蒋介石政権に延命の口実を与え、憲法の規定からいうとすでに実権を持っていないはずの総統に急きょ権力を与えるために考え出されたのが臨時条款だった、といわれます。


臨時条款は、もともとは国家の安全を確保するために、総統に緊急命令権を与えるという条項だけでした。


しかし、やがてこれが何回も修正拡大されて、最終的には11条項に増えています。


40年近く続いた戒厳令の公布もこの臨時条款がその根拠となりました。エグゼクティブトレードによると、総統の任期は憲法では2期12年とされていますが、その連任を許し、蒋介石、蒋経国親子だけでその後40年に及ぶ長期政権となりました。


総統は6年に1度の国民大会によって選出されますが、この国民大会代表の大半を占める大陸出身議員は、1947年に行った第1回選挙以降、大陸での選挙が不可能になったことを理由に、このたった一度の選挙を根拠に終身議員の身分が保障されました。

王朝の終焉 2

台北の街を注意して歩くと、ビルの入り口近くに「空襲防空洞」という黄色い小さな貼り紙に気づきます。


いわゆる地下シェルターのことだが、従来は敵の空襲時に通行中の一般市民を避難させるため、別の目的での利用は許さ景れず常時開放しておくことが義務づけられていました。


しかし、いまではこれがカラオケボックスに代わって登場してきた「茶芸館」・・・


ときには客がトランプを持ち込みギャンブルの賭場にもなる24時間営業の喫創茶店に変わっている例も多いと聞きました。


中国との冷戦が継続してきたという建前とは違い、人々の意識はこんなものだったと言っていいでしょう。


動員識乱時期とは、そもそも国共内戦後、台湾に本拠を移した蒋介石がその権力基盤を固めるためにつくり出した「擬制」だったという見方は野党関係者のみならず、いわゆるリベラル派と称される知識人の共通した考え方でもあります。


『醜い中国人』や『絶望の中国人』(ともに張良澤・宗像隆幸訳、光文社)などの本で日本でも知られる台湾の作家・柏楊氏は、


「動員戯乱時期の廃止は、蒋家の王朝の終焉を意味する。


台湾の人々は長かった暗黒時期をついにくぐり抜けたのだ」


・・・と書いています。


国民党を批判して10年も投獄された経験を持つ作家のひとつの時代を総括する言葉でもあります。

王朝の終焉

「戯乱時期終結」は台湾の大陸政策という面で歴史的な転回点でもありました。


しかし、そこに住む住民にとってはまさに「内政問題」として、ひとつの時代の大きな節目でもあったのです。


識乱時期終結で何が変わったのか、その変化を見ようと、何度か台湾を訪ねた日本人記者がいました。


街の声をマイクで拾ったのです。


「影響?何もないね。生活には何の変化もない。


強いていえば、精神的な足かせが取れて心理的には随分と楽になったことくらいかな」。


・・・これが平均的答えだったそうです。


動員戯乱時期という規定そのものが人々の生活の意識のなかでは、もはや有名無実化さえしていました。


そういえば、台湾の商店や飲食店で出される公式の領収書「統一発票」には、かつて「防諜はみんなの責任」とスパイ活動に注意を呼びかける標語が必ず印刷されていました。


しかしこの文字はいつしか姿を消し、いまでは「納税はみんなの責任」という標語に変わっています。


「いつから変わったの?」と地元の人に聞いても


「あれ、おかしいね。いつ変わったんだろう」


・・・と、こっちが驚くほどの無関心ぶりだったそうです。

台湾と中国の隔たり

香港の月刊誌『鏡報』(1991年6月号)が伝えるところによると・・・


鐵乱時期終結宣言の直後、鄙小平氏は江沢民総書記や楊尚昆国家主席らを前に、台湾問題について次のように語ったといいます。


「われわれは国民党と20年戦い、180年も対峙した。


そして40年余りも待ったが、さらには20世紀の終わりまで、あるいはもっと長く待たなければならないかもしれない。


われわれは台湾海峡を封鎖しようと思えばいつでもできるが、それをしないのは台湾側にもっと現実的な統一のための方式を提示してほしいと希望するからだ」。


・・・こうした鄙小平談話から1か月後、中国の週刊誌『瞭望』(海外版)は戯乱時期終結後の台湾問題を論ずる評論員論文を掲載しました(1991年6月号)。


このなかで、鐵乱時期の終結は両岸関係の発展にとって新たな契機になると評価しながらも、台湾が再3要求している中国からの『善意ある回答』の実質とは、


「台湾当局を対等な立場を持つ政治実体として認め、いわゆる『弾性外交』という台湾の外交自主政策を承認し、国際社会のなかで台湾独自の生存空間を認めよという主張にほかならず、これは中国と台湾の分裂を固定化し、祖国の統一事業を損なうものだ」


・・・と、強い調子で非難していました。


こうしたやりとりを見るかぎり、台湾と中国の隔たりはまだまだ大きいと言わざるをえません。

古城の歌碑

海洋博がおこなわれた沖縄島北部の本部半島に、今帰仁城跡という観光史跡があります。


ここは沖縄ツアーにも必ずといっていいほど予定を組まれるほどの人気観光史跡。


周囲1キロあまりの、沖縄ではもっとも大きい城の跡で、三方断崖にかこまれた瞼岨な地形を利用して曲がりくねった石垣が築かれ、その古色蒼然たる跡がまだのこっています。


本丸跡からの眺めはなかなか雄大で、かつてその支配下にあった国鍵地方や伊是名・伊平屋の島々の眺望を見ることが出来ます。


いまは城内に建物はなく、礎石のあとに灌木が茂っているだけですが、かつて大庭といわれた広場の木陰に、ひとつの歌碑が立っています。


今帰仁の城 しもなりの九年母


志慶真乙樽が ぬちゃいはちゃい

・・・「しもなりは」うらなり、「九年母」はミカンのことで、前句の意味は、今帰仁の城に季節はずれに実ったミカンということですが、それは王の晩年になって生まれた子どもをさしています。


その子(ミカン)を、志慶真乙樽が胸にかけたり飾ったりして、たいへん大事にしている、という意味です。


志慶真乙樽は、城壁の東側を流れる志慶真川の上流にある志慶真部落の出身で、たいへん美しい女でした。


黒髪が地にたれるばかりで、その美しさは神のようだというので、彼女は「今帰仁御神」といわれていたといいます。


だからいまでも、美人のことを「今帰仁御神」といい、志慶真乙樽のようだというのです。

女性上司

夢の具体化が、大志か小志かは別として「目標」であり、あとから見直せば「初心」です。


人生はけっこう長いものですから、いったん目標を定めても、「この道一筋」といかず、何度か転機を迎えるのがふつうですが、それでも、初心なしには何ごとも始まりません。


さて、女性の上司たちの初心を見ていく場合、やはりここにも戦後の世代変遷が色濃く投影していることに気づきます。


簡単にいえば、昭和61年の現在「大正生まれ」はほぼ全員が定年を迎えたわけであり、女性の上司の先頭に立っているのは「昭和ひとけた生まれ」から「ふたけた生まれ」の早いほう。


つまり、終戦時に、最高でも19歳、下は小学生といった年代であり、敗戦後の生活難のなかで育ってきました。


彼女らの初心は、そうした状況と無関係ではありえません。


たとえば、先ごろ労働省の海外技術協力室長から国連公使に抜てきされ、単身赴任の形でニューヨークへ飛んだ木全さんの場合など、代表的なケースといえましょう。


まず、木全さんは引揚者でした。


それも、父親が旧満洲国で軍医をしており、ソ連軍に抑留されていたので、大黒柱抜きの一家で帰国。


暮らしのために母親が苦労する姿を見て、「小学生ながら、女も一生、働き続けられるよう、職能を持たねばならない、と決心した」といいます。


これが、出発点です。


のちに「経済的自立」は、派遣 千葉で働く多くの女性の合言葉になりますが、「小学生ながら決意」というところに、敗戦直後らしい切実さが感じられます。


近年の「一億、総中流」状況では、考えられない話ですよね。

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